有限責任事業組合(LLP)設立

有限責任事業組合(LLP)

◇はじめに
◇有限責任事業組合の活用分野
◇有限責任事業組合(LLP)の設立
◇設立手続きの流れ

◇はじめに

起業しようと思ったら、やはり株式会社の設立が真っ先に思い浮かぶ事と思います。逆に言いますと、それは株式会社を設立する以外の方法は、思いつかない若しくは馴染みがないからではないでしょうか。
しかし平成17年から、有限責任事業組合(LLP)というまったく新しい組織を設立できるようになりました。簡単に言いますと、事業体として「今までの日本には存在しなかった新しい形」なのです。

1)有限責任事業組合の特徴
LLPは民法組合の特例制度として新しく創設され、これによって特にIT関連や金融関連、デザイン事務所などの専門家や産学連携、ベンチャーと大企業の連携、共同研究開発などにとって非常に利用しやすい組織が生まれたことになります。もっとわかりやすく言いますと「優れた技術はあるもののお金のない専門家(技術者など)や中小企業」などが、「大企業などと共同で仕事ができる」新しい形態の組合で、出資額がものをいう事業ではなく「人」を活かす事業に大いに向く組織なのです。

よく似ている組織形態としまして、「合同会社(LLC)」というものが会社法の改正によって新しくつくられました。有限責任制、内部自治の徹底などLLPと同じ特張を持ちますが、しかしLLCは「合同会社」という名の通りに「法人格」があり、LLPはあくまでも「組合」であって法人格はありません。

合同会社(LLC)の活用分野としては、法人でありますので当然に、株式会社への組織変更が認められていますので、永続的に収益を求める事業に向いた形態といえますが、有限責任事業組合(LLP)は、法人や専門家の能力などを活用する事業、共同研究開発事業として、なによりその期限が設けられているような事業に向いていると言えます。

2)有限責任事業組合(LLP)の5大メリット
1.有限責任
事業における責任については「出資額」までしか負いません。

2.内部自治原則
「利益や損失の配分」については各々の「出資額にかかわらず」組合員で自由に決定することができます。労務・知的財産・ノウハウの提供等を貢献度合いに合わせて「出資比率とは異なる配分」をすることができます。

出資額の多寡に囚われることなく、利益の配分や権限などを自由に決められる。

3.構成員課税
「パススルー制度」と言われるもので、出資者に直接税金がかかります。言い換えますと、組合には課税されませんので(法人ではないので法人税がない)いわゆる二重課税にならないのです。

構成員課税について
構成員課税は、LLP段階では課税することをしないで、出資者に直接課税する仕組みになっています。このため、出資者への利益分配にも課税がなされるという二重課税が避けられるという大きなメリットや、LLPの事業で損失が出た場合、一定の範囲でというくくりはありますが、組合員の他の所得と損益通算をすることができるというメリットもあります。このLLPの場合は、法人税ではなく構成員課税というものが適用されることになりますから、LLPへの直接課税はされません。
事業によりLLPが利益を上げると、その利益を出資者が得る(分配)ことになります出資者の利益の分配に対して課税がなされるのです。

同様にLLPの事業で損失が出た場合も、他の収入と合算(損益通算)できるのです。これは出資者が個人であっても法人であっても同じことです。これによって、特に出資者が法人であった場合には利益を圧縮することになりますから、際限なくということではありません(制限があります)が、節税効果が期待できます。

4.有限責任制
LLPの出資者(組合員)はすべて有限責任です。有限責任の範囲については、「出資者は出資金の範囲までしか責任を負わない」こととされます。但し、例外的に債権者を保護するための規定を設けることにしています。

5.共同事業性の確保
LLPの意志決定は出資者全員で行います。また全員で業務の執行を行う事を原則としますので、何か役割を持たなければなりませんので、「お金だけ出してあと頼む」のような株主的存在は認められていません。

日本では共同事業をするような場合によく利用される民法組合には、法人税はかかりません。その代わりに構成員課税になるので税金面では有利なのですが、責任はどうなるかといいますと、事業に失敗すれば出資者全員が無限責任を負うという大きなデメリットがあります。また、株式会社などの場合であれば、責任は有限責任で、出資以上の責任は負いませんが法人課税が行われることになります。これらからLLPは、「組合」と「会社」のいいところを組み合わせた新しい「組織」ということがいえます。

日本では近年、高度な知識・技術やノウハウなどの資産を持った人や会社などが結集し「共同事業」というかたちで、これらの資産を有効活用するという組織が求められてきましたが、実際にはこのような組織形態がありませんでした。
そこで、登場したのがLLP制度を民法組合の特例制度として創設することだったのです。このLLPを活用することによって、従来個人の専門家などには困難だったリスクの高い共同事業の出資が、それほど難しいことではなくなりますし、産学連携や研究開発など活用する価値の高いものになると期待されています。

◇有限責任事業組合の活用分野

1.ソフトウェアの専門家集団
プログラマー・デザイナー・ 営業などその分野での専門家が結集して業務を行い、共同開発や販売などの事業を行うような場合です。この場合、貢献度合いに合わせて配分を柔軟にすることができます。また、構成員課税になるので、利益が発生すると組合員それぞれに課税されることになりますし、損失が出れば各組合員それぞれの所得と通算することができます。

2.映画の製作
映画を製作する場合は、日本では「○○製作委員会」などが作られる事が多いのですが、この場合、民法組合で組織していることが多い。しかし、民法組合では無限責任を負うことになるので、リスクを嫌がって新しい人が新規に加わることが難しいなどの点があります。その点、有限責任事業組合(LLP)の場合、有限責任ですから新しい人を加えて映画製作を進めていくことが容易になります。

3.中小企業同士の連携
有限責任事業組合(LLP)を設立すれば、高度な技術力を持つ金型メーカーと成形加工メーカーが複数結集して事業を発展させる事が可能になります。法人が組合員になることができますので、仮に事業に損失が出た場合でも親会社の所得と通算することできます。また利益が発生すると組合員であるそれぞれの親会社に課税される事になるのです。さらに、出資比率に拘らず「貢献度合に合わせて配分を行う」ことができることも、LLPの大きなメリットです。

4.製薬会社と大学教授とによる産学連携
個人としては多額の出資を行うことはなかなか難しいと思います。例えば、製薬会社と教授が連携して株式会社で事業を行う場合など、出資(例えば9:1)比率により利益配当が決まりますから、利益は会社側(9)に流れますので、残念ながら教授個人は提供した知識等による利益を手にすることはできません。しかし有限責任事業組合(LLP)は出資比率に拘らず貢献度合いに合わせて配分を柔軟にすることができるので、会社9、教授1の逆の配当も会社が承諾すれば可能になります。

5.農家と加工業・流通業の連携
農家と食品の加工業者や流通業者が有限責任事業組合(LLP)を設立して、加工食品などの共同事業を行うことも可能です。

有限責任事業組合(LLP)の設立

1.組合契約書の作成
設立にあたりまずは、「組合契約書」を作成します。作成した組合契約書に、組合員全員で署名又は記名押印します。この組合契約書というのは、株式会社でいう「定款」と同じように大切な決めごとを記したもので、次の事項を記載又は記録します。

・有限責任事業組合の事業内容・組合の名称・組合の事務所の所在地・組合員の氏名又は名称及び住所・組合契約の効力が発生する年月日・組合の存在期間・組合員の出資の種類及びその価値・組合の事業年度登記

登記
組合契約書に組合員全員が押印し、組合員全員それぞれが「出資の払い込み」をした後に「主たる事務所を管轄する法務局」へ登記を行う事で成立します。登記手続き期間は、季節や法務局により違いますが、大まかに約10日で登記が完了します。

登記が完了しましたら、LLPの「登記事項証明書」を取得してLLPの銀行口座を開設したり、管轄税務署に開業の届け出を行います。

設立後には
有限責任事業組合(LLP)で事業を行う場合には、「有限責任事業組合」という名称を表示、使用しなければなりません。また、経理上での処理として「損益計算書・貸借対照表」を作成し税務署に届け出を行わなければいけません。これは、株式会社もLLCも同じですので必要作業だと思って下さい。

設立手続きの流れ

組合契約書の作成を行う

組合員全員で組合契約書へ押印(実印)

出資の払い込み・現物出資の給付を行う(振込は代表者の口座へ)

法務局へ組合契約の登記申請を行う(印鑑証明書等の必要書類を添付)

約10日

登記の完了

この有限責任事業組合(LLP)はその活用範囲が非常に広く、優れた仕組みであり新規創業や創造的連携・共同事業にとっては、魅力的な仕組みといえます。

業務対応地域
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